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感染性腸炎 infectious enteritis

感染性腸炎とは

感染性腸炎とは、病原微生物が人間の腸管に侵入・増殖して発症する病気の総称です。 感染性腸炎の原因としては、細菌性、真菌性、ウイルス性、寄生虫性、薬剤起因性腸炎などがあります。

感染性腸炎の症状

一般的には発熱、頻回の下痢、水様性下痢、血便などがあります。

感染性腸炎の検査

まず詳細に問診を行い、季節や原因食品の有無と発病までの期間、海外渡航歴の有無(主に発展途上国が多い)、ペット動物の飼育の有無、発症前に抗菌薬、NSAIDS(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:非ステロイド性抗炎症薬)、PPI(プロトンポンプ阻害薬)などの内服の有無を確認します。

一般的な便培養検査、血液・生化学的検査・免疫学的検査を加えて総合的に診断します。 多種多様にあるために簡潔に各論を述べてまいります。

感染性腸炎の種類

カンピロバクター腸炎

原因

鶏肉、豚肉や馬肉などの生肉の摂取が原因であることが多いです。

潜伏期間

2~10日間

症状

急性に下痢、血便、強い腹痛、嘔吐や発熱で発症します。

診断・検査

大腸カメラ検査では、全大腸の発赤、浮腫、びらんなどの粘膜異常を認めますが、特に回盲弁上の浅い潰瘍性病変を40%程度に認めます。

治療

軽症で経過し、自然軽快することが殆どです。

大腸カメラ検査

エルシニア腸炎

原因

Yersinia enterocolitica(以下Y.e)とYersinia pseudotuberculosis(以下Y.p)の2菌種の病原体のうちのどちらかの経口感染によって引き起こされます。 豚、イヌ、ネコの保菌が多いため、豚肉の摂取やイヌやネコなどのペットを介して感染があります。

潜伏期間

3~7日間

症状

Y.p感染の方が、Y.e感染よりも症状は重くなる傾向が強いとされています。 急性の右下腹部痛で発症し、下痢の頻度は高くないため、急性虫垂炎との鑑別に注意が必要です。 水様性下痢、軟便を認めることがありますが、血便を認めることは、まれとされています。 ときには、関節炎や皮膚に出現する結節性紅斑(けっせつせいこうはん)などの腸管外合併症を認める場合もあります。

診断・検査

大腸カメラ検査

大腸カメラ検査において、病変の局在は回腸末端部を中心に虫垂、盲腸から上行結腸までで粘膜の発赤・浮腫・潰瘍・びらんの多発を認めます。 大腸カメラ検査で採取した腸粘膜の培養検査や生検検査(粘膜の一部を採取して組織検査を行うこと)で特徴的な所見を認める場合もあります。 症状として下痢の出現頻度がさほど高くないため、便の細菌培養検査の陽性率が低いとされています。

大腸カメラ検査
腹部超音波検査

非侵襲的(ひしんしゅうてき:体に負担が少ないこと)であることから、行うことが推奨されます。 腫大した回盲弁や腸間膜リンパ節など観察されます。 血液検査で血清抗体価の測定で160倍以上であれば陽性と診断可能です。

治療

軽症例は、自然軽快することが多いが、症状が強い場合は、抗菌薬として セフジトレンピボキシルやニューキノロン系の薬剤を内服します。

腸管出血性大腸菌感染症(O157感染症)

原因

牛肉をはじめとした様々な食品や家畜との接触、汚染された湖沼、井戸やプールの水など感染原因は多様化しています。 腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli; EHEC)は、志賀毒素(Shiga toxin;Stx)=ベロ毒素を産生する下痢原生大腸菌と定義されており、特にStx2は出血性大腸炎や溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome ; HUS)の発症に深く関与しています。

ここでは、代表的な腸管出血性大腸菌感染症としてO157感染症について簡潔に解説しております。

潜伏期間

1~8日間(平均3日間)

症状

潜伏期間の後、腹部の疝痛(:周期的に反復する発作的な内臓痛)と下痢で始まり1~2日で血性下痢に変わる。 血性下痢は便成分が殆どなく血液そのものの外観を呈するとされています。 嘔気・嘔吐は約半数に認められ、発熱は微熱程度で、高熱を呈することは稀です。

診断・検査

細菌学的検査に関しては、通常の便培養検査以外にも、迅速検査法として便中のO157 lipopolysaccharide(LPS)抗原やStxを検出する方法もあります。 培養が陰性となった場合でも、血清O157LPS IgM抗体も診断に有用です。 大腸カメラ検査は、その特徴的な内視鏡所見から腸管出血性大腸菌感染症(O157)の診断には、きわめて有用です。

右側結腸(盲腸・上行結腸・横行結腸)で炎症所見は、顕著であり、下行結腸、S状結腸や直腸などの左側結腸よりも右側結腸のほうが炎症が顕著に高度であるという炎症勾配(こうばい)という特徴を有している頻度が高いです。 詳細な所見としては、高度の浮腫・浮腫による管腔の狭小化・発赤・縦走するびらんや縦走潰瘍・易出血性などが見られます。

大腸カメラ検査

合併症

溶血性尿毒症症候群(HUS)は溶血性貧血・血小板減少・急性腎機能障害を併発した疾患です。 1~10%程度に溶血性尿毒症症候群を合併し、さらにそのうちの25%程度に脳症を発症します。 急性期の死亡率は約3~5%程度です。

治療

抗生剤の投与には賛否があり、統一見解はありません。 投与する場合はFOM(ホスホマイシン)もしくはニューキノロン系などの早期投与が行われます。 二次感染の予防として、感染者のトイレ・洗面の個別使用化、感染者の家族・医療スタッフへの注意喚起、排泄物の取り扱いにも指導・管理を厳重に行わなければなりません。

アメーバ性腸炎

原因・感染経路

男性同性愛者間の性行為感染症(sexually transmitted disease; STD)の一つとして認識されています。 性風俗を介した感染者が、最近の増加の要因と考えられています。

症状

発熱、粘血便、下痢、腹痛、易疲労感などです。

診断・検査

私見ですが、初見の問診において生活歴、旅行歴や性的嗜好などプライバシーに関することを詳細に聴取できることは残念ながら少ない印象です。 ただし、正直にお話しいただくことが迅速な診断に肝要であることはいうまでもありません。

検査

血液検査において、白血球増多、CRP陽性などがあります。 CRP高値となるのは、合併症として肝膿瘍を有しているケースが多いとされています。

糞便検査

糞便中に栄養型虫体あるいは、嚢子が検出されれば診断に到りますが陽性率は低いことが現状です。

大腸カメラ検査

病変の分布としては盲腸と直腸が多く、そこに形態としては発赤を伴ったタコイボ様びらん、打ち抜き様潰瘍などの所見を認めます。 びらんや潰瘍からは粘液などの滲出液が付着していることが多いです。 病変の中心部より粘液の採取や生検を施行し、組織診断によりしばしば確定診断に到ります。

大腸カメラ検査
血清抗アメーバ抗体検査

肝膿瘍合併例では陽性率が高くなります。 大腸カメラ検査における粘液採取、生検検査と血清抗アメーバ抗体検査などを組み合わせることが診断率向上に必須となります。

合併症

HIVや梅毒の合併も少なくないため併せて検査と注意が必要です。 経門脈的に肝膿瘍を合併することがあります。 肝膿瘍合併例は、発熱、全身倦怠感などの炎症所見が高度となるなど重症化することもあります。

治療

初期治療としてメトロニダゾール(metronidazole)を1,000~1,500mgを2週間程度内服していただきます。

参考文献)JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 -腸管感染症-
一般社団法人日本感染症学会、公益社団法人日本化学療法学会、JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会、腸管感染症ワーキンググループ
Mead PS, GriffinPM : Escherichia coli O157:H7. Lancet 365:1073-1086, 2005