食道がん esophageal cancer
食道がんとは
食道は、咽頭(いんとう:のど)と胃の間をつなぐ管(くだ)状の臓器です。 咽頭付近を頸部(けいぶ)食道、胸の付近を胸部(きょうぶ)食道、胃と食道がつながる上下2cmの部分を食道胃接合部領域(せつごうぶりょういき)と呼びます。
食道の壁は、内側から外側に向かって粘膜(粘膜上皮・粘膜固有層・粘膜筋板)、粘膜下層、固有筋層、外膜に分かれ、周囲にはリンパ節があります。
食道がんは、粘膜の表面から発生します。 食道のどの部位にも発生する可能性がありますが、約半数が食道の中央付近から発生します。 また、食道内に複数個、同時に発生することもあります。
食道がんの進行による分類
食道の壁の粘膜内にとどまるがんを早期食道がん、粘膜下層までのがんを食道表在がんと呼びます。粘膜内にとどまる場合は、殆ど転移リスクを有しておりません。この段階で発見することが肝要です。
食道がんは、粘膜筋板への浸潤を来すと4.9%程度と少ないながらもリンパ節転移を生じてしまうため、その意味では胃がんや大腸がんよりも転移しやすいといえるでしょう。 よって、早期発見の重要性をご理解いただけると思います。
食道がんの組織型分類とは
食道がんには、大きく分けて扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんと腺がんに分類されます。
扁平上皮がん
食道がんのうち約90%程度を占め、飲酒と喫煙がリスクになります。
腺がん
食道がんのうち約7%程度で、食道胃接合部領域に発生することが大半で、バレット食道からがん化するルートを辿ります。
食道がんのリスクとは バレット食道とは食道がんの症状とは
食道がんは、早期の段階では自覚症状がないことがほとんどです。 早期の段階では胸部違和感にはじまり、進行するにしたがって下記のような症状になっていきます。
- 胸部違和感
- 飲食物がつかえる感じ
- 体重減少
- 胸や背中の痛み
- 咳
- 嗄声(させい:声のかすれ)
胸部違和感
早期発見のために注意しておきたい症状です。 飲食物を飲み込んだときに胸の奥がチクチク痛む、熱いものを飲み込んだときにしみる感じがするといった症状があります。
がんが、さらに進行して食道の内側が狭くなると、飲食物がつかえやすくなり、次第に軟らかい食べ物しか通らなくなります。 固形物ひいては飲水も通らないため嘔吐する頻度が増えてきます。 食事摂取が困難となりますから、体重減少を来します。 がんが進行して食道の壁を越え、周囲にある肺・背骨・大動脈などに浸潤すると、胸の奥や背中に痛みを感じるようになります。
また、食道がんが大きくなり、気管や気管支を圧迫したり、気管や気管支などに浸潤したりすると、その刺激によって咳が出ることがあります。 さらに声帯を調節している神経に浸潤すると嗄声(させい:声がかすれること)を生じることがあります。
食道がんのリスクとは
食道がん発症のリスクとしては飲酒、喫煙と逆流性食道炎・バレット食道が挙げられます。 ここでは扁平上皮がんのリスクの一つである飲酒について、まず述べたいと思います。
食道がんと飲酒の関係
アルコールは主にアルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase; ADH)によってアセトアルデヒドになり、アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase; ALDH)によって酢酸になります。 ここまでは主として肝臓での代謝ですが、酢酸は筋肉などの肝臓外の組織で主に代謝されます。 このアセトアルデヒドが発がん物質なのです。
ADHには、遺伝子多型があり5~7%の日本人はアルコールの分解が遅いADH型を持っています。この遅い代謝のADH型があると、多量に飲酒した翌日もアルコールが長時間残って酒臭いことが多く、アルコール依存症になりやすい体質といえます。 長時間アルコールが体内に滞留し、アセトアルデヒドもゆっくりと産生されるので、顔面紅潮、動悸、嘔気、頭痛などの不快なフラッシング反応が起きにくいことも、多量飲酒者になりやすい理由といえます。
ALDHのうちALDH2と呼ばれる酵素には、東アジア人に多い遺伝子多型で酵素活性がゼロか弱い人が大勢います。 このALDH2欠損型の人はコップ1杯のビールで顔が赤くなるなどのフラッシング反応が起こり、比較的少ない飲酒量で二日酔いを起こします。
両親からの遺伝子が2本とも欠損型(ホモ欠損型)の人は、酵素活性がゼロで酒が飲めない下戸の体質です。 1本だけの欠損型(ヘテロ欠損型)では、フラッシング反応が弱い人や飲んで鍛えているうちに耐性ができて飲めるようになる人もいます。
アルコール摂取の際に以下の方は食道がんの高リスクです。
- お酒を飲んでも赤くならないが、翌日もお酒臭い
- お酒を飲むと赤くなるが、飲む量が多い方
- 最初はお酒を飲んで赤くなっていたが、やがて赤くならなくなり飲めるようになった(強くなった)
喫煙も食道がんのリスクの主たるものとして挙げられます。現在、禁煙していても以前、喫煙していた方も含まれます。
食道がんと逆流性食道炎・バレット食道の関係
逆流性食道炎・バレット食道は、バレット食道腺がんのリスクになります。
逆流性食道炎とは バレット食道とは食道がんの検査とは
食道がんの診断に有用な検査には、胃カメラ検査があります。 胃カメラ検査を行い、疑わしい病変があればその場で組織を採取し(生検)、良性なのか食道がんなのかどうかを顕微鏡で詳しく調べる「組織検査」を行います。
特に、早期の食道がんの場合、隆起してくることがなく、形態的にはわずかな陥凹(かんおう:へこみ)を呈するのみで、色調の変化でしか発見できないものも少なくないため、画像強調や色彩強調や拡大内視鏡などの最新の画像診断システムでの検査が有効です。
特に上述した食道がんの高リスク群に相当する方につきましては、胃カメラ検査を推奨します。
胃カメラ検査について
当院では、解像度の優れた最新の内視鏡システムを用いて、痛みや苦痛を最小限に抑えた胃カメラ検査を専門医が行っておりますので、安心して受診なさってください。
参考文献)
がん情報サービス 国立がん研究センター
厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット
横山顕 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター