• 8月 17, 2026

大腸カメラ検査を受けた方へ|大腸がん予防とビタミンDの現在地

大腸カメラ検査を受けた方に、ぜひ知っていただきたい栄養素があります。それがビタミンDです。
ビタミンDというと「骨を丈夫にする栄養素」というイメージが強いかもしれません。しかし近年、ビタミンDと大腸がんとの関係について、多くの研究が行われています。
ここで重要なのが、骨粗鬆症の治療などで使用される「活性型ビタミンD製剤」と、血液中のビタミンDの充足状態を評価する25-ヒドロキシビタミンD[25(OH)D]は区別して考える必要があるということです。
25(OH)Dは、体内にどの程度ビタミンDが存在しているかを反映する主要な指標です。
大腸がんとの関連を調べた疫学研究の多くは、この25(OH)Dを測定しています。

ビタミンDが少ない人ほど大腸がんが多い?

この点については、かなり興味深い研究結果があります。
17の前向きコホート研究を統合した国際研究では、血中25(OH)D濃度が低い人ほど大腸がんリスクが高く、25(OH)Dが30 nmol/L未満の人と比較すると、75~100 nmol/Lの人では大腸がんリスクが22%低いことが報告されました。
さらに注目されるのが、韓国で行われた大規模研究です。
2023年に『Gastroenterology』に掲載された研究では、236,382人の韓国人を平均6.5年間追跡し、血中25(OH)Dと大腸がん発症との関係を調べました。
特に注目されたのが50歳未満の若年者です。
25(OH)Dが10 ng/mL未満の人を基準にすると、10~19 ng/mLでは大腸がん発症リスクが約39%低く、20 ng/mL以上では約59%低いという結果でした。
大腸腺癌、結腸癌、浸潤癌でも同様の関連が認められています。
つまり25(OH)Dが高い方が、大腸がんの発症リスクが低下することが示されたのです。
加えて、近年増加している、若年発症大腸がんにおいてより強い関連性が示されたことは、とても興味深い点です。
この研究は、運動不足、肥満、食生活、飲酒歴、喫煙歴、大腸がん家族歴、日光曝露量、などの大腸がん発症に影響を与える因子(交絡因子)を可能な限り調整している点が優れています

では、ビタミンDをサプリメントで補えば大腸がんを予防できるのでしょうか?

この疑問に答えるため、実際にビタミンDを内服して大腸腫瘍を予防できるかを調べたランダム化比較試験(RCT)も行われています。
代表的なのが、米国で行われたVitamin D/Calcium Polyp Prevention Studyです。
大腸腺腫を切除した2,259人を対象に、ビタミンD3 1,000 IU/日、カルシウム、両者、あるいはプラセボを3~5年間投与しました。
結果として、ビタミンD3を投与しても、新たな大腸腺腫の発生率は有意には低下しませんでした。
さらに、25,871人が参加した大規模RCTであるVITAL試験では、ビタミンD3を2,000 IU/日投与しましたが、大腸腺腫や鋸歯状ポリープの発生を有意に減少させることはできませんでした。
つまり現時点では、
「血中25(OH)Dが高い人ほど大腸がんが少ない」
という観察研究の結果はあるものの、
「ビタミンDサプリメントを飲めば大腸がんを予防できる」
とまでは、現時点では証明されていません。

それでもビタミンDに注目する理由

では、なぜ研究者はビタミンDの研究を続けているのでしょうか。
ビタミンDは単なるカルシウム代謝の調節因子ではなく、ビタミンD受容体(VDR)を介して細胞増殖、分化、アポトーシス、免疫応答など、さまざまな生物学的作用に関与しています。
また、VITAL試験の別の解析では、ビタミンD3 2,000 IU/日の投与によって、転移性または致死性の進行がんの発生が低下するという結果も報告されました。
特にBMI 25未満の人で効果が大きかったことから、ビタミンDの効果は体格やベースラインのビタミンD状態などによって異なる可能性も考えられています。
これはまだ「大腸がんをビタミンDで予防可能であることの証明」ではありませんが、ビタミンDとがんとの関係を考えるうえで興味深い知見です。

大腸内視鏡を受けた方におすすめしたいこと

まず大切なのは、ビタミンD不足を放置しないことです。
ビタミンDは、鮭、サバ、イワシなどの魚類や、きのこ類などから摂取できます。また、適度な日光曝露によって皮膚でも産生されます
食事や生活習慣だけでは不足が疑われる場合には、血液検査で25(OH)Dを測定し、不足の程度を確認することも一つの方法です。
不足している方では、ビタミンD3(コレカルシフェロール)の補充を検討します。ただし、大腸がん予防のために○○ ng/mLを目標に、全員が○○ IU飲む」という医学的な基準は、まだ確立していません
また、ビタミンDは脂溶性ビタミンであり、大量摂取によって高カルシウム血症などを起こす可能性があります。自己判断で高用量のサプリメントを長期間服用することは避けましょう

大腸カメラ検査+生活習慣の見直しで、将来の大腸がんリスクを考える

大腸カメラ検査(大腸内視鏡検査)は、現在の大腸の状態を確認し、腺腫などの前がん病変を発見・切除することで、大腸がんの発生を減らすことができる治療に直結する重要な検査です。
一方で、将来の大腸がんリスクを考えると、検査だけではなく、日々の生活習慣にも目を向ける必要があります。
ビタミンDについては、まだ研究途上の部分があります。しかし、「ビタミンDが不足していないか」という視点を持つことは、大腸の健康を考えるうえで意味のあることだと私たちは考えています。
大腸カメラ検査あるいは腺腫や鋸歯状病変などの内視鏡切除をきっかけに、ご自身の食事、運動、体重、飲酒、喫煙、そしてビタミンDの状態について、一度見直してみてはいかがでしょうか。
大腸カメラ検査で大腸を守る。そして日々の生活から、将来の大腸がんリスクを減らしていく。
その両輪が、大腸の健康を守るために大切です。

※本稿は現在の医学研究に基づく情報提供を目的としたもので、ビタミンDサプリメントによる大腸がん予防効果が確立していることを示すものではありません。サプリメントの使用や25(OH)D測定については、持病や服薬状況などを踏まえ、医師にご相談ください。

引用文献
Kim Y, et al. Serum 25-Hydroxyvitamin D Levels and Risk of Colorectal Cancer: An Age-StratifiedAnalysis.Gastroenterology. 2023;165(4):920-931. doi:10.1053/j.gastro.2023.06.029.
McCullough ML, et al. Circulating Vitamin D and Colorectal Cancer Risk: An International Pooling Project of 17 Cohorts. J Natl Cancer Inst. 2019;111(2):158-169.
Chung M, et al. A Trial of Calcium and Vitamin D for the Prevention of Colorectal Adenomas. N Engl J Med. 2015;373:1519-1530.
McCullough ML, et al. No Association Between Vitamin D Supplementation and Risk of Colorectal Adenomas or Serrated Polyps in a Randomized Trial. Gastroenterology. 2020.
Barry EL, et al. Vitamin D Receptor Genotype, Vitamin D3 Supplementation, and Risk of Colorectal Adenomas: A Randomized Clinical Trial. JAMA Oncol. 2017;3:628-635.

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