- 12月 21, 2025
便潜血検査陰性は、「大腸がん」ではないことを意味するのでしょうか?
こんにちは、当院のブログをお読みいただきありがとうございます。
開院して、1年半が経過しようかというところであります。不意に「進行大腸がん」が診断されるケースが相次いだので、皆様に是非ご留意・再確認いただくべきことがあり記載することにいたしました。
これまで、14例の「進行大腸がん」を当院で内視鏡診断してまいりました。
少ない症例数ですが、初診時の主訴の内訳により、「進行大腸がん」でも予後が異なることが、下記の如くご理解いただけると思います。
8例が、下腹部痛・肉眼的血便・高度便秘・交代性便通異常(便秘と下痢が交互に来る症状)、下痢などを主訴としていました。この群は明らかに、予後が悪い方が多く、すでにリンパ節転移や肺や肝臓などの遠隔転移を来しているなどで、StageIVであり根治外科手術を選択できないと判断されたケースが3例(3/8)ありました。うち1例は半年前に、便潜血検査で陰性でしたが、手術時にはリンパ節転移陽性でした。
やはり、症状が出現してから大腸カメラ(大腸内視鏡)を受診して診断された、「進行がん」は、無症状の「進行がん」よりもstageが進行しており、予後が悪いことが想定されます。
日本の大腸がん検診システムと類似のシステムでデータ解析をしたスペインの後ろ向きコホート研究などでも、有症状となってから「進行がん」と診断されるグループよりも、便潜血検査で陽性と診断されてから大腸カメラ検査で、「進行がん」と診断されるグループの方が予後が良好であるという結果を述べております。
ここからが、本題になります。便潜血検査について一般の方が、誤解されている内容が多いので、述べさせていただきます。
皆様が想定されているイメージは、良性のポリープ(腺腫などの前癌病変)や「早期がん」に対しても高い感度で検出される。さらには「進行がん」の場合には100%近い精度で陽性になると誤解している方が多いのです。
まずは、良性の腺腫などでは、10mm以上のがん化のリスクがあるadvanced neoplasiaであっても30%程度とされています。「早期がん」の場合には、50%程度しか陽性が期待できません。発生した腫瘍の形態が、隆起する形態であれば、陽性になりやすいのですが、平たかったり(平坦型)、凹んで発育する(陥凹型)などでは、陰性になりやすいのです。
便潜血検査の「進行がん」に対する感度ですが、あるシステマティックレビューの推定値ではstageII:80%、stageIII:82%、stageIV:79%でした。早期に相当するT1がんでは、推定感度は40%に留まりました。
この解析結果は、「進行がん」の感度は、80~90%、「早期がん」の感度は50%程度であるという諸説に矛盾しないものでした。
では、当院の少ない症例数で分析すると、毎年便潜血検査を受診されてきて、便潜血検査が初めて陽性になり、大腸カメラ検査を受けて「進行がん」と診断された症例は、6例(6/14)に上ります。
この症例群は、前年度の便潜血検査結果が偽陰性であった可能性が高いのです。流石に何もないところから、1年間で進行癌が発生することは稀ですよね。
この便潜血検査をきっかけに診断に直結した「進行がん」の方のほうが、有症状で診断に到った「進行がん」の方よりも診断確定時に驚き・悲嘆が大きい印象を受けます。背景には、便潜血検査=「早期がん」の検出というような誤解と大腸カメラ検査に対する「苦痛」のイメージなどがあり、敬遠してきたことがあると思われます。
「進行がん」で発見されても「大腸がん」の場合は、他のがんの比較して予後は良好ですから、恐れず標準治療を受けて頂きたいと思います。
ただ、「早期がん」の内視鏡治療を専門としてきた人間としては、「大腸がん」の前駆病変である腺腫や無茎性鋸歯状ポリープの時点で発見して切除すれば、「大腸がん」を予防することが可能です。比較的制御しやすい「がん」種といえます。
便潜血検査が陰性なので大丈夫だろうと考えて、大腸カメラ検査を受けたことがない方は、是非一度、大腸カメラを受診いただくことを推奨します。
前年度便潜血検査が陰性で、本年度、陽性に転じて、「進行がん」が発見されたケースを提示します。
いずれも、陥凹(かんおう)傾向が強い症例で、いかにも便潜血検査をすり抜けてしまいそうなケースを取り上げました。
症例1:盲腸に20mm弱のIIa+IIc型病変、ひだ集中を伴い、粘膜下層深部浸潤~筋層浸潤を想定しました。ロボット支援下腹腔鏡手術が第一選択となる症例です。


症例2:横行結腸に25mm程度の、症例1よりもひだ集中が強い。陥凹も深く、がんの深達度は
漿膜下層を予想しました。ロボット支援下腹腔鏡手術が施行されました。


症例3:上行結腸に35mm程度の症例2よりも、さらに壁変形が強く、陥凹もかなり深い。
このような症例が前年度、便潜血検査で陰性であったことに驚かされます・・・。
想定深達度は漿膜以深と考えました。

参考文献
Prognostic Study of Colorectal Cancer: Differences between Screen-Detected and Symptom-Diagnosed Patients. Sergio A. Novotny , Vidina A. Rodrigo Amador , Jordi Seguí Orejuela et al.
Cancers. 2024 Sep30;16(19):3363.
Stage-Specific Sensitivity of Fecal Immunochemical Tests for Detecting Colorectal Cancer: Systematic Review and Meta-Analysis. Tobias Niedermaier, Yesilda Balavarca, and Hermann Brenner.
Am J Gastroenterol 2020;115:56–69
Accuracy of fecal immunochemical tests for colorectal cancer:Systematic review and meta-analysis. Lee JK, Liles EG, Bent S, et al.
Ann Intern Med 2014;160:171.